
賃貸物件の修繕とリスク管理|事故事例から学ぶ必須知識とは?
賃貸物件の維持管理において、「修繕の遅れ」や「リスク管理の不備」が大きな問題となることがあります。建物の老朽化や設備の不具合を放置すると、入居者トラブルや事故につながり、オーナー・管理会社にとって大きなリスクとなりかねません。
本記事では、以下の内容を解説します。
この記事でわかること |
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賃貸物件の修繕とリスク管理について理解でき、長期的なコスト削減と安全性向上につながるため、ぜひ参考にしてみてください。
目次[非表示]
賃貸物件における修繕の考え方
賃貸物件の修繕には、大きく 「予防・矯正・繰述」 といった3つの考え方があります。それぞれの特徴を解説するので、知識として覚えておきましょう。
予防:計画的に修繕を行う
1つ目の考え方は「予防(予防保全)」です。予防は、設備や建物が劣化する前に計画的な修繕を行うこと。最も理想的な考え方だといわれています。予防の事例は、以下のとおりです。
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予防的な修繕を行うことで、長期的な物件価値を維持しやすくなり、結果的にコストを抑えられるようになるでしょう。
矯正:問題が発生してから対応する
2つ目の考え方は「矯正」です。実際の賃貸管理では、予防ではなく「矯正」による修繕が多くなりがちといえます。矯正は、設備や建物に不具合が生じた後に修繕を行うこと。矯正の事例は、以下のとおりです。
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矯正は緊急対応が必要になり、費用や時間がかかる傾向にあります。予期せぬ事態で矯正による修繕が発生することはあるものの、できるかぎり予防にシフトすることが望ましいといえるでしょう。
繰延:なんらかの理由で修繕を延期する
3つ目の考え方は「繰延」です。繰延は緊急性が低かったり、資金面で問題があったりする場合に、修繕を先延ばしにすること。繰延の事例は、以下のとおりです。
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繰延は一時的なコスト削減になるものの、後々のリスクを高める可能性があります。慎重な判断が求められるでしょう。
賃貸物件におけるリスク管理の考え方
修繕と並んで重要なのが、リスク管理における「制御・回避・保持・転嫁」といった4つの考え方です。それぞれの考え方についての詳細は、以下のとおりです。
考え方 |
詳細 |
制御(損害を抑える) |
事故の発生リスクを減らすために、適切な対策を講じる。 |
回避(原因をなくす) |
事故の原因となる要素を完全になくすことで、リスクをゼロにする。 |
保持(リスクを許容する) |
リスクを認識しながらも特段の対策を行わず、問題が起きれば自己負担で対応する。 |
転嫁(保険で対応する) |
リスクを保険という形に移転することで、事故発生時の金銭的負担を軽減する。 |
修繕とリスク管理の考え方を理解したうえで、適切な対策を講じることが重要です。
実際の事故事例から学ぶリスク管理の重要性
近年、修繕不足や管理不備が原因で発生した事故が問題視されています。今回は以下3つの事例から、具体的な対策を見ていきましょう。
【北海道】2階の外廊下、渡り廊下崩落事故(2020年10月、2022年7月)
北海道(苫小牧市、札幌市)にて、アパートの2階部分の外廊下や渡り廊下の床が抜けてしまい、遭わせて6人が転落した事故が発生。北海道では大雪が降るため、ほかの地域よりも融雪剤を使う機会が多くなります。融雪剤には「塩化ナトリウム(塩分)」が含まれていることから、鉄部が錆びやすいといえるでしょう。沿岸部も同様に鉄部が錆びやすくなります。
事故原因は、鉄部の錆を含めたメンテナンス不足です。定期的なメンテナンスを怠れば、鉄部の劣化が加速する可能性もあります。主な対策としては、定期的な点検と必要に応じた修繕です。
【東京都】2階の外廊下崩落事故(2023年7月)
東京都板橋区では、築50年のアパートで2階外廊下の床が抜け、引っ越し作業をしていた作業員2人が転落した事故が発生。幸い命に別状はなかったものの、状況次第では取り返しのつかない事故につながるところです。
事故原因は、老朽化が進むなかでも、適切なメンテナンスを行わなかったことが挙げられます。主な対策としては、定期的な点検・修繕を行うことです。外廊下や階段、鉄部などの劣化状況を定期的に点検し、問題があれば早めに修繕を行っていきましょう。
【静岡県】マンション敷地内の土砂崩れ事故(2020年2月)
神奈川県逗子市では、分譲マンションの敷地内で土砂崩れが発生し、登校中の女子高生が巻き込まれて命を落した痛ましい事故が発生。2023年6月には、当時の管理会社の担当者が「業務上過失致死」の疑いで書類送検される事態となりました。
事故の前日、マンションの管理人が斜面にひび割れを発見し、管理会社に報告していました。しかし、適切な対応が取られないまま翌日朝に土砂崩れが発生。一連の流れが「適切なリスク管理が行われなかった」と判断され、厳しい処分へとつながりました。
対策としては、物件管理の「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」を徹底したり、事故リスクが発生した場合に迅速な体制を整えたりすることが挙げられます。
賃貸物件の安全を守る修繕とリスク管理を徹底しよう!
物件の安全性を維持するためには、計画的な修繕と適切なリスク管理が欠かせません。修繕には「予防」「矯正」「繰延」といった3つの考え方があります。とくに「予防」を意識することで、長期的なコスト削減と事故防止につながるでしょう。
また、リスク管理の観点では「制御」「回避」「保持」「転嫁」を適切に組み合わせて、万が一の事態に備えることが重要です。実際の事故事例からもわかるように、点検や迅速な対応が不十分だと、大きな事故や法的責任につながる可能性があります。安全な物件管理のために、日々のメンテナンスとリスク対策を徹底しましょう。